門前街並み観察会
2018年6月16日
9:00~11:00
参加者: 4人
【案内人】梅干野成央
信州大学学術研究院工学系(工学部建築学科) 准教授
【プロフィール】
専門は日本建築史学。伝統文化を承け継ぎ伝えるため、歴史的な建造物に関する研究と、保存・再生に取り組んでいる。自宅は茅葺屋根の古民家を改修したもの。
【コース案内】
長野は日本を代表する門前町。善光寺の門前は、どのような建築が集まってできているのでしょうか。門前町としての長野のまちを、建築史の視点で観察します。
【コース】
門前商家ちょっ蔵おいらい館
江戸末期にたてられた町家(都市の住まい:店舗兼住宅)です。江戸時代の門前の町並みは、どのような風景だったのか、今に残る建築を観察しながら想像してみましょう。
↓
大門町
大門町にはいろいろな時代の、いろいろな種類の建築たちがたちならんでいます。伝統的な町家から和風・洋風の建物まで、大門の町並みを観察しながら、門前の多様性を感じましょう。
↓
宿坊群・仲見世
全国に誇れる門前町の中核には、どのような建築がたっているのでしょうか。善光寺の宿坊と仲見世の町並みを観察しながら、門前の真髄を感じましょう。
↓
ナノグラフィカ
NEO門前文化、創造の地です。古い町家を改修した建築のなかで、お茶を飲みながら観察会のおさらいをします。
スタート前に「今日はコースは決めてるけど、どの建物を見るかは決めてないんですよね」と梅干野先生。でも歩き出すと早々に、「あの正面に見える建物!かっこよくないっすか?」とエンジンが入りました。
目、輝いてます。さぁ、出発しましょう!
善光寺さんが核となり、中央通りを“まちの骨格”として左右対称に形成されているここ門前町。その街並みを読み解くとき、「高さ」はそれぞれの建物の歴史を理解する上でひとつのキーワードになるそうです。
江戸から明治、明治から大正と、土地の利活用を追求して建物は徐々に高く造られるようになっていきました。
近代的な中澤時計店の建物。(大正13年)
石造りに見えますが、実は木造建築。
こちらは防火のために外壁を土や漆喰(しつくい)などで厚く塗り込んで造った町屋。(現:柏与紙店、忍者大門)
防火対策としては宝暦10年に善光寺大勧進が防火のための家造りを奨励しているのが古い事例で、その後、明治21年には長野県が「家屋築造制限法」を公布しました。
よく見てみると建物の側面からは土壁も見えます。
少し移動してぱてぃお大門の楼閣(現:旬花)。
「楼閣」は、建物が高密に建っていた門前の都市を象徴する建築です。
都市の建物は面積を広げられないので、上へ、上へとのびていく特徴があるのだとか。
ぱてぃお大門から東に進んで「ちょっ蔵おいらい館」へ。
こちらは江戸時代の町屋で、1847年の善光寺地震直後から3年かけて再建されたもの。門前周辺の建物はこの地震の家事で消失して再建されたものが多くあるそうです。
もとは豪商「油問屋 三河屋庄左衛門商店」の建物だったこのお屋敷。
道路の拡幅に伴ない、家ごと100m移動して現在の位置に建っています。
これを「曳家(ひきや)」と言うそうです。
屋敷奥の敷地で菜種油を作り、1階は販売、2階の広間は接客(商談)用に使われていました。
ちょっとした釘の造りや装飾にも時代ごとの特徴が現れているそうです。
建物調査を依頼されると、梅干野先生はこういった細かな点を隅々まで観察して建物の歴史を読み解くのだとか。
こんな隠し渡り廊下もありました。
「ちょ蔵おいらい館」だけで1日説明できちゃうね、と言いつつお次は東町の「東司」。ここはトイレ兼、東町の屋台の収納庫となっています。
東町の「東屋 別邸」。
この建物のうえには望楼が乗っていました。
(この望楼から昔はえびす講の花火を見ていた、という話もあるとか…)
大門町に移り、近代洋風建築「れんが館」や近代和風建築「五明館」を観察。
梅干野先生いわく、門前界隈の街並みは「古くからある街並みを保存するばかりではなく、それを土台に新しい要素をミックスさせて発展してきたもの」だそうです。
近代洋風建築「藤屋御本陳」
こちらも中澤時計店と同じく実は木造。
善光寺へ。
仁王門の近くにきて梅干野先生が指差したのは歴史的な理容室。
裏にはかつて理容学校もあったそうです。
仁王門をくぐって目を凝らして見えたのは、老朽化で建物としての役目を終えて静かに佇む蔵春閣。
ここで「善光寺の屋根部分は何でできてると思いますか?」と、梅干野先生から質問。答えはなんと「檜の皮」。
檜の皮で屋根をふく方法を「檜皮葺き」と言うそうです。
その他にも本堂が奥に深い建物になった理由を解説してくれました。
善光寺から下って、弥栄神社へ。
「ながの祗園祭(弥栄神社御祭礼)」の舞台でもあり、善光寺と関わりが非常に深い神社です。
最後の目的地「ナノグラフィカ」へ。
ここは先生いわく「NEO門前文化、創造の地」。
2003年からこの建物を拠点に、現在は企画編集室兼喫茶(でもほかにも演劇とかいろいろ)として活動しているナノグラフィカ。
本人たちも楽しみながら行っているその活動を通じて、ゆるやかに今の門前界隈の空気感が醸造されました。
建物の2階は運営メインメンバーのひとり「通称:たまちゃん」一家の住居としても使われています。
ここで出かける直前の「たまちゃん」とばったり遭遇。
「築年数ははっきりしていないけれど、大家さんいわく100年くらいじゃないかって。」と、建物について説明もしてもらいました。
ちなみに梅干野先生はたまちゃんと学生時代からの知り合い。
リスペクトの意を込めて「たまちゃんさん」と呼んでいるそうです。
1階の喫茶室でお茶休憩しながら、本日の振り返りを。
今日のまちあるきは、ふだんは千曲に住まわれている方、安曇野に住まわれている方、県外から4月に長野市に移住されてきた方2名…という構成だったので「うちのまちの建物はね」というそれぞれの話題でも盛り上がりました。
建物の高さや隙間、屋根など、ふだん目に入っていても焦点を合わせていないところをたくさん見た本日のまちあるき。
こうやって見ると、街並みってとても奥行きあるものなんだなぁとあらためて思ったのでした。
(同行:大日方)
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